プロット
1.プロローグ
娘役中心のナンバーで幕が開く。華やかに夢々しく。
途中からエミールが参加して、明るく道化のエミールして絡む。
娘達と入れ替わるように、男役の剣を使ったダンス。
ここの中心はイシミル。戦勝祝いの席である事が判るように。
そのまま改めて娘役も出て、男女の絡みによる群舞へ発展していく。
王妃フィフィスも登場してイシミルに絡む。
宰相の声にて一旦踊りの輪がとかれる。
2.
今回の戦利品として、沢山の品物と共に女達も連れてこられる。
王妃と宰相は、新しく後宮に入る女を検分するようにイシミルに進める。
イシミルは形だけ顔を上げさせるが、興味なさげにフィフィスに声をかけて退場してしまう。
イシミルに従って、黒騎士、白騎士の二人も退場する。
苛立たしげに、見送るフィフィス。
そして、エミールを呼び寄せる、理由など告げずに大勢の人々の面前だと言うに、
激しくエミールを打ち据える。抵抗出来ないエミールを打ち据えることで、
苛立ちを押さえるフィフィス。怒りが治まった彼女におどけて礼をのべるエミール。
そんな彼を人々があざ笑いながら退場していく。
フィフィスも宰相も退場していく。
総ての人が去ってしまってから、やはり応えたのか膝を折るエミール。
ライサが彼を支えるが、エミールは思わず振り払い退場してしまう。
振り払ったことでしまったと思ったか、笑いながらおどけながら…。
しかし、悔しさはその全身から溢れていた。
見送るライサの哀しみ…。
3.
イシミルと黒騎士・白騎士の3人の場面。
イシミルは白銀の鎧を脱ぎながら心は此処にないと言った風情。
白騎士が着替えを手伝っている。
黒騎士は戦のあり方や、今後の事などを相談しようとするが、イシミルに止められる。
この時イシミルは騎士から、王の姿になっていた。
イシミルは暫くは戦に出ないと彼等に告げる。
休んで力を蓄えておくようにと…。
確かにそれは正しかったが、2人はイシミルを王宮に置いておくことが怖かった。
何か嫌なこと、イシミルにとって、ディースの国にとって災いが起こる予感がしていた。
4.
イシミルは二人を残して、そのまま銀橋へ歌ソロ
王としての己と騎士としての己を表現したい。
そのまま舞台は、後宮へと移って行く。
5.
大勢の女達の笑いさざめく声が聞こえている。
目隠しをしたエミールを女達が囃し立て、追い回している。
いわゆる目隠し鬼だが、声を頼りに駆け回るエミール。
高みから退屈そうに、それでも道化のエミールには興味深げに見つめるフィフィス。
その傍らに心配そうなライサも居る。
イシミルが舞台へ戻って、女達に静かにと合図を送って、エミールを捕らえる。
合図と共に女達は跪き辺りが静まったことで、戸惑うエミール。
捕らえられて、驚いて目隠しを外す。
相手が王イシミルと知って棒立ちとなる。
イシミルはエミールに言葉をかけながら、フィフィスの元へ行く。
私より、此処(後宮)の住人らしいと。
フィフィスは嫌み混じりにその通りだと答える。
戦で王宮を空けるイシミルより、常に後宮の囚われ人エミールは女達と共にあるのだと。
しかし、後宮の女達を自由に出来るのは、王イシミルのみ。
フィフィスの言葉にイシミルは苦笑い。エミールは困惑気味。
男性と少年の微妙な対比。
イシミルがエミールに一曲歌えと命令する。
フィフィスを誘い出して、機嫌を取るようにダンスシーンへと発展していく。
いつの間にか、舞台上はイシミル・フィフィス。エミール・ライサだけになっている。
ライサがエミールの声に重ねるように歌う。
総てが終わって静かに照明フェイドアウト…。
6.
宰相に対して、怒鳴り散らす兄の声が聞こえてくる。
戦ばかりしているかと思えば、帰ってくるなり後宮から出てこない王への当てこすりの嫌みばかり。
宰相は心得た物で、同意するでもなく、反論するでもなく、それでも受け答えはしている。
その間宰相の悪としての顔も見え隠れしている。
そこへ、黒騎士と白騎士が登場する。
思わず身構える兄…。宰相はこれも心得た物で二人をやり過ごして、兄を連れて退場してしまう。
黒騎士は王宮では何処にいようと休まる場が無いと嘆く。
白騎士は苛立ちを隠さない。
人々の不安を煽り立てるように、舞台は夜の中庭へ。
7.
月を見あげるようにエミールが一人佇んでいる。遠くなった自分の国を思い描いているのか。
そこへ人影が近づいてくる。身構えるように愛用の楽器(小型のギター)を握りしめるエミール。
人影は今日連れてこられた女の一人であった、声が届く距離を見計らったように跪き、
エミールの素性を確かめる。
警戒しつつも近くに他の人目が無いと判ると、道化の顔でなく本来あるべき顔、
王子エミールしての姿を取り戻す。
彼女はパルム王国復活を望む他の国から送り込まれた密偵だった。
エミールの生死を確認して、頃合いを見計らって救出。
ディースを討ち取る旗印にエミールを掲げて兵を進軍させる手はずになっていると説明する。
パルムの再興。願っている事ではあったが、何処かこの王宮を去りがたく思っているエミール。
しかし、王になる。その自分の役割。運命は受け入れていた。だから生き残る道を選んだのだ。
時が来たら知らせてくれと、頼んでエミール退場。
女も殆ど同時に姿を隠す。
誰も居ないはずだったが、やはりライサがエミールを案じて側に居た。
いつかは去ってしまう、エミール。彼が去ってしまうとき、また再び敵となる。
お互いの国がまた戦うことになる、2度と会うことも叶わなくなると嘆く切ない女心。
歌ソロで。
8.
今夜もイシミルは王妃以外寝室に呼ばれなかったと、噂しあって女達が通り過ぎていく。
どれ程優れた王であっても、あの王妃には頭が上がらないのかと、小賢しくうるさい事である。
噂話の掛け合いで、入れ替わり立ち替わりのナンバー
9.
イシミルの寝室。フィフィスが薄物をまとっただけで、ベットから起きあがってくる。
イシミルが声をかける、部屋に戻るのかと…。
そうではないけれど、イシミルが自分以外の女をこの部屋に呼ばないことで、 少し苛立ちを覚えていた。
フィフィスが問う、子をなそうとは思わないのかと、自分が選んだ女達は気に入らなかったのかと。
イシミルはフィフィスとの子供が欲しいだけ、王妃の血を受け継ぐ者で無ければ意味がないと。
フィフィスは自分が母になることは諦めていた。イシミルの子が欲しかった。
イシミルの心の内に望む女が居るかどうか試してみましょうと、誘うように彼を立ち上がらせる。
場面は、イシミルの心象風景へ。
10.
王宮の寝室から一転して不思議な空間へ移動する。女達が仮面を付けて居並んでいる。
一人また一人とイシミルに絡むダンスシーン。
目の前に来たときに仮面を外す。その度一度は触れるが離れていく女達。
そんな女達に混じって一人異質な者が入ってくる。仮面は女達と同じ。
その者がイシミルに近づく、同時にフィフィスも仮面を付けて登場する。
異質なる者が、イシミルが触れることの出来る場所にやってくる。
仮面を外す。エミール。現実では無いように触れることがためらった瞬間に再び仮面を付けて後ろに下がる。
フィフィスは仮面を取り、イシミルを我が者と言いたげに、からみつくように抱きしめる。
そして、一旦離れてエミールと並ぶ。
3人正面を見てのストップモーション。照明カットアウト。
カットインで、イシミルが振り返った先には、フィフィスしか存在していなかった。
彼が真に振り返った相手は…。
いつの間にか、元の寝室に戻っている。
11.
フィフィスはイシミルの心の内が見えた気がしていた。イシミル自身が意識せぬ心。
面白いことを思いついた、暫く待っていて欲しいと言い残して退場していく。
イシミルの望むもの。ディースの王家の血を受け継いだ世継ぎの誕生だった。
彼は王としての誰はばかる必要のない、王としての資質に恵まれた男であった。
しかし、王としての血筋ではなく、その事でエミールに憧れのようなコンプレックスを抱いていたのは、事実でもある。
王として、騎士として。男としての切なさや苛立ちを、歌ソロで。
12.
フィフィスが、自分の取り巻きの女達に紛れ込ませるように、一人の新しい女を連れてくる。
顔は、ベールで隠して深く下を向いている。イシミルの前で跪く。
イシミルは笑ってどんな女を連れてきても同じだと言う。私は貴女との子を欲しているのだと。
フィフィスは、子はどうか判りませんが、この者ならイシミルは興味を持つだろうと笑う。
激しく、冷たい笑い。イシミルは訝しく思って女のベールを剥いでしまう。
やはり、女の格好をさせられたエミールだった。道化に身を落としているとは言え、
屈辱にその身を震わせていた。しかしフィフィスの命令と耐えていたのだ。
姿だけでなく、紅までさして知らぬ者が見れば、男と判らぬなかなかに美貌の姫ぶりであった。
イシミルは一瞬動揺した顔を見せるが、エミールにかけた言葉は冷たくぞんざいな物であった。
道化の役割にも程がある。そんな衣装で紅までさして。女と見間違うような紅を取れと、
自分の片袖を引き裂いて手渡す。そのまま下がれと命じる。
后とゆっくりと過ごそうしていたのに興が削がれたこれから皆で騒ごうと、明るく振る舞う。
エミールは渡された片袖を握りしめて駆け去っていく。
フィフィスや女達の笑い声に背中を押されるように。
13.
前場面の女姿のままのエミールが登場する。
まず、イシミルの片袖で紅を拭きおとす。
自分の運命を呪い、男としての屈辱を与えたフィフィス。
そして、自分を歯牙にもかけない、イシミルを必ず討ち取ると決意を固める。
銀橋を使った歌ソロ。
この時、台詞。歌の間に女の装束を解いていく。
歌が終わったとき、そこに存在するのは、紛れもない一人の王子、王となる男の姿だった。
衣装はシンプルに白シャツに黒の細身のパンツか。
そんなエミールを秘かに見つめる2つの影。
ライサと宰相。両花道ぐらいか…。3人を浮き上がらせるように照明落ちる。
14.
苛立つフィフィスの声が聞こえてくる。
前場面から残っていたライサが、姉の元へ行く。
両極とも言える姉妹だが、仲は良かった。
フィフィスは、いつものように、イシミルへの不満と想いをライサにぶつける。
王宮からも長く出ていなかった事も不満のようだった。
そこへ、宰相がやってくる。
2人に久し振りに何処かの離宮へ出かけてはと進める。
それを聞いてフィフィスはとある離宮を思い出す。
そして、暖かくなってきたから海辺の離宮へ行きたいと言い出す。
確か管理は任せている者が居たはずだと。
海辺と聞いてライサは驚き、姉を止めようとするが、
宰相とフィフィスは海辺の離宮へ出かける事を決めてしまう。
この離宮は元パルム国内。幼い頃エミールと共に遊んだ思い出の離宮だった。
宰相は計算どおりフィフィスをその気にさせる事が出来たと、ほくそ笑む。
ディースに、そしてパルムに不穏な空気が漂い始めて居た。
15.
王と王妃がやってくると、子供が知らせを持って駆け込んでくる。
両袖から夫婦と判る男女が大慌てで登場して中央でやり取り。
夫は王様はお亡くなりになったのにと不思議がる。
妻は、馬鹿なこと言ってないで、フィフィス様とイシミル様の事だと言って聞かせる。
そう、ディースの統治下であっても彼等がこの地にやってくるのは初めてだった。
2人は大声で村の人達に声をかけて、王宮の人々を迎える準備の手伝いを頼む。
真っ白いシーツが舞い。花を抱えた娘達が出る。男達は酒や食べ物を荷車を押して運んでくる。
人々の明るい営みを大らかに表現していく。
ある程度目処がたった頃に、夫がまた叫ぶ。
エミール様はいらっしゃるのだろうかと…。
妻は、会いたいがやはり無理だろうと嘆くが、言っている間に、
2人を呼び駆け込んでくるエミール。
2人とは勿論旧知の仲。
エミールは国民に愛された王子だった。
懐かしさと嬉しさに抱き合い泣く夫婦。
2人を慰め微笑むエミール。
そこへ、フィフィスの叱咤する声。
王が到着したことの知らせも出来ないのかと…。
ハッ…と、思い出したように、イシミルとフィフィスの到着を知らせるエミール。
その場に居る人々は、本来なら彼の治める国の人々だというのに…。
イシミルとフィフィスが大勢の家臣達を連れて到着する。
統治者としての自信と女王ぜんとした気品と貫禄でフィフィスが歌う。
イシミルとディースを讃えて、従うようにと。人々は跪き服従の意志を示す。
華やかさの中に、人々の思惑を浮かび上がらせる。
16.
離宮の中。黒騎士がイシミルを探している。
白騎士が逆から登場して、フィフィスの気まぐれと、イシミルが何故エミールを連れて来る事を承諾したのか、いぶかしむ。
不穏な空気を感じていた。
そこを離宮の者が通り抜けようとする。
黒騎士は呼び止める。王を見なかったかと…。
多分外へ出られたのでは無いかと、答える。一人で外へ行かれるのを見かけたと。
黒騎士の指示で、白騎士は向かえに出ていく。
17.
夕暮れの海辺の高台にエミールが何か考えるように、それで居て故郷を懐かしむように、沈む夕陽を眺めている。
そこへ、イシミルが登場する。エミールに声をかける。
共も連れずに突然現れたイシミルに驚くエミール。
慌てて下がろうするが、押しとどめられて、昔話思い出話になっていく。
故郷はどうだと聞き、この離宮には昔はフィフィス達の護衛として良く来ていたと懐かしむ。
一人の騎士であった嘗てが己の本当の姿かもしれないと…。
エミールもあの頃は諍いが起こるなど思いもよらず、
フィフィスには何時も無理ばかり言われていたが、楽しく過ごせていたと。
自分達を守ってくれる、近衛騎士のイシミルに憧れていたと、少年の瞳のままで語り合う。
国同士が平和で共存していたあの頃、2人の心が思い出を共有し安らかになるひととき。
そこへ、白騎士がイシミルを探して部下を数人連れて登場する。
エミールと楽しげに話をしているイシミルの姿を見て面白く無い。
イシミルに一人での行動は控えてもらうように言いつつ、
エミールもいくら勝手が分かっているにしても、
許可無く離宮の外へ出るのは身のためにならないと、蔑みを込めて言い放つ。
イシミルは思わず庇いかけるが、より白騎士の言葉をきついものにしてしまう。
イシミルは諦めて部下と共に退場する。白騎士とエミールが残る。
白騎士の嫉妬とも取れる厳しい言葉に我慢するしかないエミール。
白騎士退場。エミール残って静かにフェイドアウト。
18.
離宮では夕食の仕度でバタバタし始める。
管理人の夫婦はウロウロしながらもテキパキと指図していく。(コーラスやダンスで表現)
そんな中で、兄が登場する。大切そうにワインの瓶を抱えている。
主人に、王と王妃へ祝いの酒だが自分からだとは、あかさないで欲しいと頼んで手渡す。
食事の席で振る舞ってくれと。王妃の兄上の言うことなので疑問も持たずに引き受ける。
必ず使わせていただきますと、約束する。
彼の企みが悲劇の幕開けとなる。
19.
巨大なテーブルに人々が着席していく。
その待ち時間にエミールが歌っている。
歌の終わる頃合いにフィフィスをエスコートしてイシミルが、登場する。
料理が運ばれる間に、フィフィスがエミールに何故パルムの歌を選んだのかと聞く。
その場に居る人々も勿論先程の歌がパルムのものだとは承知していた。
あえて口に出したり、まして問いただす者は居なかった。
ディースの人々にとっては気まずく、パルムの人々にとっては嬉しいが、淋しさも感じていた。
フィフィスの問いかけはいつもの、いたぶりなのだが、
この離宮は元々エミールの国であり、回りにいる人々は何も起こらなければ良いがと言った雰囲気。
フィフィスの投げつけるきつい言葉に何も返せないエミール。
気まずさを解消しようと、イシミルが口を挟む。誰にとっても故郷は懐かしいものだと。
まして、そこに久し振りに戻ってきているのだから、歌の一曲や二曲許してやるべきだと。
イシミルが口を出して、エミールを庇うのが気に入らないのだが、人の目が多すぎて、
フィフィスもそれ以上いたぶるのは止める。
主人が取りなすように先程の酒を持ってやってくる。
ある人からの贈り物ですと、言いつつ杯に注いで回る。
乾杯の発声になってフィフィスが口を付ける寸前でイシミルが杯を打ち落とす。
その瞬間に他の一人が苦しみだして倒れる。毒が仕込まれていた。絶命する。
フィフィスとイシミルの暗殺を企んだのだ。
予想しない事態に驚き怯える夫婦。
それを説明も求めずこの場の責任者として確認だけして、斬り捨てる。
主人も妻も自分達の企みではないと懇願するが聞き入られる事は無かった。
倒れる時に兄を示して絶命する。彼等に駆け寄るエミール。
イシミルの急変とも取れる変化と非情さに今まで以上の憎しみを抱くエミール。
2人が暗殺など企てる筈がない事などイシミルは承知している筈だと訴える。
絶叫に近い叫び、2人の亡骸に泣き崩れる。しかし瞳はイシミルを敵としてしっかりと捉えて居た。
人々の思惑が悲劇へとひた走って行く。
20.
イシミルが残り、黒騎士が出る。
何故調べる事もせず主人夫婦を斬ったのか、パルムの人々の反感を買うだけと判っているのに。
イシミルはフィフィスの命が脅かされた事に怒りを感じ、恐れていた。
彼にとってフィフィスはディースの象徴だったから…。
しかし、怒りに任せて主人夫婦を斬った訳でも無かった。
自分とフィフィスを一番憎む者。その場に居た者で心当たりがあるのは唯一人。
しかし、あの場で問いつめることは出来なかった。
だが替わりになる者が必要であった。
イシミルの心に闇が広がっていく不安と言う闇が…。
そのまま、イシミルのソロ。
それにフィフィスの声が重なり、彼女も登場する。
イシミルへの愛と、しかし届かない想いとして歌う。愛するがゆえの不安。
2人のすれ違う心をデュエットする。
そこへ、怒りと改めて復讐を誓うエミールが登場する。
三人の三重唱になる。
三人の心は届くべき人に届かず、すれ違い別れていく。
21.
エミールが、残る。密偵の女が控えている。
イシミルを討つ事が出来るのかと、改めて確認する。
エミールは、その日が来る事を、望んでいる事。兵は何時になれば揃うのか、
自分は此処から脱出出来るのかと聞き返す。
兵は、パルムへと集まりつつある事、早ければ数日中にその時は来るだろうと告げる。
エミールはイシミルを倒すことで、真の解放が待っていると信じていた。
彼と剣を合わせる時が…。静かにフェイドアウト。
22.
宰相と兄が出る。
宰相に早まった事をしたと、ネチネチと責められている。
兄としては、本国を出た時がチャンスと考えていたし、
その事には2人の思惑に違いは無かったが、兄の行動は性急すぎた。
そこへ、黒騎士と白騎士が登場する。
宰相は、いつものようにしたたかに、さり気なく、その場を離れる。己の本心を隠して。
黒騎士が、静かにしかし丁寧に兄に告げる。
フィフィスとイシミルが、兄上を待っていると…。
兄は内心怯えながらも、仮にも先王の息子である自分に手出しは出来ないと、広間に向かう。
23.
エミールがレクイエムを歌っている。彼が今出来る精一杯のイシミルへの抗議の証だった。
イシミルはエミールの想いを受け入れて居たが、フィフィスは退屈そうに聞いていた。
広間に居る人々にも嫌な空気が流れている。
やはりエミールは敵国の王子なのだと言う感情。
そこへ、黒騎士と白騎士が兄の入場を知らせる。
兄が遅くなった事を詫びて入ってくる。
兄の登場に場の空気が変わったとホッとする者。嫌な奴がやって来たと、露骨な態度の者が居る。
フィフィスが、突然兄に礼を述べる。
先日は私の大好きな物を届けて頂いたのに、手を付けずに申し訳なかったと…。
その場に居た人々は一瞬凍り付く。
兄は、何のことか判らないと、話をはぐらかそうとするが、フィフィスは許すことは無かった。
そう、あのワインは特別な物だった。ディース王家に関係のある者。
自分に近い者しか手に入れることも出来ないだろうし、
まして、あの酒を一番好む事も知りはしないと判っていた。
だから、兄がその日の為に手に入れて居たと信じて疑わなかった。
イシミルはこれ以上兄を追いつめるのは危険と止めようとするが、
その前に宰相が割ってはいる。
パルムが、その昔取り寄せて、ワイン蔵に残っていたので無いか!?
そして、その一品をあの夫婦が、出してきて利用したのでは無いか、
エミールを取り戻したい一心で…。
エミールは、死者に対してこの上に侮辱を与えようとする発言に、
怒りで震えている。今にも愛用の楽器を手に飛び出しそうだ。
密偵の女が、いつの間にか近くに来て、エミールを引き止める。
しかし、フィフィスは宰相の言葉に耳を貸さない。
兄が自分をイシミルを殺そうとしたと、微塵も疑いを持っては居なかった。
フィフィスにしては、遜っているようにしか見えないぐらいに、
丁寧に妹として、兄を追いつめていく。そう、幼いときから見下してきた兄に対して。
その言葉の端々に兄が自白するしかない状況に持っていく。
回りでハラハラしていた、家臣や女達も晒し者に近い扱いになっている兄へ、
侮蔑と失笑の輪が広がっていった…。
兄は、あの酒の贈り主は自分では無いと、何とか言い逃れようとするが、
フィフィスの弁舌に勝てる筈もなく、次第に怒りに震えて何とか話を逸らそうと努力していた。
フィフィスはとどめとばかりに、贈り物のお礼と女達に何か運ばせる。
運ばれてきた物は、例のワインだった。
私に贈って頂いた物を、そのままお返ししますと…。
杯が運ばれ、兄に手渡される。女が杯に注ぐ…。
飲むように促す、フィフィス…。
兄は同じ物と言われて躊躇している。飲めば毒が入っている可能性は高い。
飲まねば、自分が企んだことと自白するようなもの。
フィフイスは、躊躇う兄に私とイシミルに、もしもの事があれば、
次は、ライサに譲るつもりだと、こともなげに言い放つ。
その場に居る人々は、凍り付く。ライサが何より驚くが、
王位の望みを家臣の面前で絶たれて、兄の中で繋がっていた糸が切れる。
杯を投げ捨てて、剣を抜きフィフィスに切りつける。
宰相の兄上様、ご乱心の声と、イシミルの剣が放たれるのと重なる。
フィフィスを庇って兄を切り捨てるイシミル。
そして倒れた、兄を見て呆然と立つイシミル。王家の者を斬ってしまった現実を認識していた。
フィフィスは、普段の彼女の顔に戻って、力も能力も女達より劣る長子など、
必要は無かったのだと、屍となった兄を侮蔑に満ちた目で見下し、
処分するように、申しつけて下がってしまう。
ライサが後を追う。姉の言葉、兄の死でかなり動揺していた。
広間に居た人々は、フィフィスの退場を合図に下がっていく。
この時セットが取り払われ、ホリゾントの空虚な闇の中にイシミルのみ残る。
24.
イシミルに黒騎士が近づく、大丈夫かと…。
大丈夫と、答えながらも戦場で積み重ねた屍の山より。
兄の血を流した、事に恐怖を抱いていた。
別の場所に、フィフィスとライサが、浮かび上がる。
先程のフィフィスの言葉を確かめるライサ(後継者問題)
フィフィスは、私以外は貴女しか居ないと、こともなげに言うが、
もし、そうなったしても、夫はエミールを選ぶ事は許さないと、
先手を打つように言って聞かせる。
ディースがパルムを支配しているのだ、ディースが支配されてはならないと…。
姉にはやはり勝てないと改めて悟るライサ。
そして、フィフィスが近い内に、ライサには他の国に嫁いでもらうつもりだと、
はっきりと、言った…。
国のための結婚。何時かはと覚悟はあったしかし現実が目の前にあった。
別の場所にエミールが浮かび上がる。
イシミルの騎士としての強さを、また見せつけられてそれでもイシミルと向き合う日を望んでいた。
密偵の女が現れる。兵が国境近くに集結しつつあること。
ディース側もその事に気付いて居る筈なので、すぐに脱出する必要があること。
城の外に仲間が待っていると告げる。
愛用の楽器を強く握りしめて、しっかりと頷くエミール。
また、別の場所に宰相が浮かび上がる。
王としての能力のない兄を都合良く始末出来たことと、
イシミルはやはり王の器では無かったと、ほくそ笑む。
パルムの兵がディースに近づいて居る事で、イシミルはこの戦で死んでもらうと高笑い。
そして、フィフィスを手に入れ、自分がディースの王となるのだと。
城の兵士や女達が、舞台上を走り回る。
黒騎士に白騎士が何か耳打ちして、黒騎士がイシミルに近づく。
パルムが兵を集結させてる事を知らせる。フィフィスとライサも側に居る。
まず、エミールの奪還に動くだろうと…。
ライサがその言葉を聞く前に退場する。エミールを追っていくつもりだった。
白騎士がその後を追う。
25.
人々が驚き、行き交っている。攻めて出る事はあっても、攻めて来る国は今まで無かった。
敵が近づいている事が、恐怖を煽っていた。
人々に混じって、密偵の女と顔を隠したエミールが登場する。
人々の間を縫いながら舞台上を右左と動き回る。
途中でライサが立ちはだかる。
エミールに自分を連れて行ってくれるように懇願する。
国に残れば、他の国へ嫁がねばならない、自分はエミールの妻と呼ばれたいのに。
エミールは静かに、連れていけないと断る。自分は貴女を愛しては居ないのだから。
密偵の女は、ライサにエミール様と同じいや、
それ以上の屈辱に耐える自信があるのなら、お連れしますと、言い切る。
敵の国へ行くと言うことは、そう言う事なのだ、しかも女の身ならばなおさら…。
流石にライサは、口ごもる。
エミールも少なからず自分の事を思ってくれていると信じていたのに。
白騎士が追いついてくる。
城から出す訳には行かないと、剣を抜く。
パルムの軍にとって旗印となるエミールが戻らなければ、志気は上がらないと…。
エミールは、改めて顔を隠していたベールを取る。
その姿は、既に道化の顔ではなく、パルムの王子エミールの顔だった。
一瞬その姿に怯む白騎士。
エミールはいつものように、愛用の楽器を握りしめる。
そして、道を開けてくれるように、自分は行かなければならないのだから。
気負い負けしたようで、悔しさからか、再び通さないと、立ちはだかる白騎士。
所詮数年間道化として生きるしかなかったエミールを、剣でなら留められると…。
エミールは受けるつもりも、此処で討たれるつもりもなかった。
唯、緊張した空気が流れる。それに絶えられなかったのは、やはり白騎士。
じれたように、エミールに斬りかかる。が、意外なほどそれを見事にかわすエミール。
密偵の女はライサを守っているが、再び白騎士が剣を振り下ろした所に、
ライサが、飛び出してくる。白騎士の剣はライサに…。
倒れる彼女を思わず抱きとめる、エミール。
自分を庇う必要など無かったのと、ライサに言うエミール。
ライサは、エミールが無事なら満足だし、私を愛してはくれなかったけれど、
自分の為に死んだ女なら忘れはしないだろうと、笑って息絶える。
女の意地を賭けた瞬間だった。
ライサを斬った事で、やはり動揺する白騎士。
そこに、フィフィスの声が響き、イシミルと共に登場する。
フィフィスが、ライサの亡骸に近づき、馬鹿な子と呟く。
哀れんでいるようで、でもライサが満足している事は理解していた。
イシミルが白騎士に言う。エミールに剣の基本を教えたのは自分だと。
確かに、ディースに来てから、剣を持つことはなかった筈だが、
その楽器を手放さないのは、それが身を守る物だからではないのかと…。
そして、先程の身のこなしから、やはり密かに剣の稽古をしていたのかと…。
エミールは、イシミルには敵わないと、言いながらも、貴方に教えてもらったことは、ずっと守ってきたと。
楽器を作る許可が下りたことで、細身の剣ではあるが、仕込む事に成功したと告げて、
楽器から剣を抜いて、イシミルと向き合う。
その剣を構えた様子から、剣の腕は悪くないと、回りを納得させる。
白騎士は口惜しいが、自分は剣を収めるしかなかった。
今度はイシミルが剣を抜こうとはしない。
引き留めはしない、戦場で再び会ってその時決着を付ければ良いのだと、
だが、フィフィスはそれを許しはしなかった。
エミールをパルムに戻して、イシミルと戦えば、イシミルが戻って来ない。
そんな不安を確信の中で抱いて居たから。
イシミルに躊躇せずに、ディースの為に、自分の為にエミールを斬って欲しいと、懇願する。
エミールも戦場に出るまでもなく、此処で決着付けても構わないと、イシミルを挑発する。
イシミルは、行けと再度繰り返す。フィフィスを間に置いて、2人はにらみ合っている。
先程からの騒ぎを聞きつけて、黒騎士と宰相が別々の方向から現れる。
エミールが剣を構えているのを見て、黒騎士も剣を抜く。
それに後押しされる用に再び白騎士も剣を抜いた。
密偵の女がエミールを守って、2人の前に立ちはだかる。
挟まれた形となる。イシミルが手を出すな、早く行けと促す。
しかし、身動きの出来る状態では無かった。
宰相は、傍観を決めていたが、イシミルにいつもの張りつめたものが無いように見えた。
もしかしたら、チャンスでは無いのか、隙のある今なら自分でも彼を討てるかもしれない。
そう、考えて護身用の短剣を抜いて、イシミルに向かっていく。
そんな、宰相にいち早く気付いたのは、フィフィス…。
イシミルの盾となって宰相の剣を受ける。女王も女だった…。
崩れるフィフィスを支えながらも、宰相を斬って捨てる。
女達の命すら投げ出す、愛の形に戸惑う男達。
しかし、フィフィスが居なくなる事は、イシミルにとって、ディース総てを無くすことだった。
行けと絶叫に近い声でエミールを、城から出す、イシミル。
彼の嘆きを目の当たりにして、もう、それを阻む者は居なかった。
26.
フィフィスの亡骸を抱いて、一人彼女に語りかけるイシミル。
夫としてよりも、彼女を守る騎士としてのみ生きていたかった。
フィフィスは、それを許してはくれなかったが、
貴女との時間は、大切な時間であったと…。
フィフィス亡き後。もはやディースの存在は意味をなさないが、
イシミルは王であらねばならなかった。
パルムの軍を迎え撃つべき準備を命じる声が響く。
そして、エミールに語りかける。
自分を討ちに来い、私は簡単には倒せないぞと…。
27.
ディースとパルムの決戦の幕が切って落とされる。
まず、白と黒の一団が舞台上に現れる。
ダンスをベースにした立ち回りである。
敵を迎え撃つ決意と団結を表現。
それを真ん中から割るように、紅の鎧の一団が現れる。
パルムの軍である。
その中心に、紅蓮の炎の鎧を身につけたエミールが存在した。
パルムは王子を取り戻したのだ。次は敵を倒し国を取り戻す番であった。
三色の軍が入り乱れての、立ち回り。
まず、黒対紅。
黒騎士は先頭に立ち、その剣を振るう。
エミールは、後方に下がり他の兵が先頭に立つ。
黒の軍に押されて一旦紅は下がる。二軍とも退場。
入り替わりに、イシミルを先頭に白の軍が登場する。
まばゆい白銀鎧を身につけて、しかし瞳はかつての輝きは無かった。
白騎士が傍らで戦って居る。
紅の軍が迫る。白と紅の立ち回り。
この場合も、イシミルは一旦後方へ下がり先頭は白騎士。
黒の軍も入ってきて、紅の軍が挟まれる形になる。
パルムの不利か…。
イシミルが、白の軍から抜け出て来る。
エミールも紅の軍から抜け出てくる。
国の頂点に立つ2人の一騎打ちの時がきたのだ。
静かに、まず花道へと進み、途中まで銀橋へ出る。
鬨の声をあげて、他の兵達を引かせる。
そして、にらみ合ったままで、舞台に戻る。
礼をかわして、一気に剣を合わせる。イシミルとエミール。
どちらかが、死ぬことどちらかの手にかかって。
2人がお互いを認め合うにはそれしかなかった。
砂埃と辺りに広がる火の手の色なのか、真っ赤な光の中で戦っている。
そのまま、大セリの上で戦いながら(盆も回っているともっと良い)
どちらが、勝ったのか判らないままに、幕は降りる。
本当に必要だった相手を殺さねばならなかった2人だから…。
幕
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